Priez pour paix

 


8月10日、横浜クライストチャーチの礼拝の前奏でフランシス・プーランク Francis Poulenc の«Priez pour paix» (平和への祈り, Pray for peace)を歌いました。

アンドリュー司祭が礼拝の式文にメッセージを書いてくださいました。とても嬉しいです。


Priez pour paix Doulce Vierge Marie

Reyne des cieulx et du monde maîtresse

Faictes prier par vostre courtoisie

Saints et Saintes et prenez vostre adresse

Vers vostre Fils Requerant sa haultesse

Qu'il Lui plaise son peuple regarder

Que de son sang a voulu racheter

En déboutant guerre qui tout desvoye

De prières ne vous vueillez lasser 

Priez pour paix, priez pour paix

Le vray trésor de joye.


平和のためにお祈りください 優しい聖母マリアよ

天の女王 世界の君よ

あなたの心で

すべての聖人たちに祈りを促し

あなたの御子のもとへ

その高い威光に願ってください

御子が民を見守ってくださることを

御子がその血で贖おうとした民のことを

何もかもを壊しつくす戦争をなくしてくださいますようにと

祈りが疲れ果てないように

お祈りください お祈りください

平和こそが真の喜びの宝なのです


この曲は第二次世界大戦が始まる前年の1938年に書かれました。プーランクは20世紀のパリに生き、すでに第一次大戦を経験していました。いったいどんな思いで作曲したでしょうか。

両大戦の間、「二度と世界に戦争は起こるまい」と思っていた人たちは少なくなかったそうです[1]。あんなことを繰り返すほど人間は馬鹿じゃない、と。

「また戦争が始まるのか」...プーランクが作曲した当時の思いは、そんな怒りや悲しみだったのかもしれません。そしてあのような最悪の結末をもってWW2が終わるとは、おそらく想像しなかったのではないでしょうか。

生粋のパリジャンであったプーランクは、アポリネールやエリュアールなど同じ時代にパリを拠点に活躍した詩人の詩を数多く歌曲にしました。15世紀のオルレアン Charles d'Orléans の詩を採ったのは、彼にしては珍しいことです。「500年も前とまったく同じことを祈っている(のにどうして戦争はなくならないのか)!」と、きっと思ったことでしょう。そして今を生きる私たちも、同じことを感じるのではないかと思います。

プーランクは1936年に自身の初めての宗教曲となる«黒い聖母への連祷»を作曲し、この«平和への祈り»を書いた1938年からWW2が開戦した翌年の1939年にかけて«悔悟節のための4つのモテット»を作曲しました。彼は自身の宗教曲について「私自身の最良の部分、何よりも本来の自分に属するものをそこに注ぎ込んだ」[2]と語っています。実際、彼は今聴いても笑えるような変な歌曲や、今なら確実にコンプラに引っ掛かるような変な歌曲もたくさん書いています。そんな音楽も自分を偽って書いたのではなく、“そっち側”も本当の作曲家の姿なのでしょう。宗教曲を書くことは、神と向き合うことです。神と向き合うことが何よりも本来の自分であった、神の御前に自分は本当の自分であったと語るのは、篤い信仰なしにはできないと思うのです。

美しく熱烈なプーランクの宗教曲、信仰の発露とも呼べる«Priez pour paix»―彼の祈りの根には、題名の示す通り「平和への祈り」があったのではと思います。


8月15日は日本における終戦記念日であり、教会においては聖母マリアの祝日(カトリックでは聖母の被昇天、聖公会では主の母聖マリヤの日)です。

聖母マリアに執り成しを願う祈りの曲を礼拝で奉唱することができ、とてもありがたいことでした。




参考図書

[1] 小沼純一 著「パリのプーランク―その複数の肖像」

[2] フランシス・プーランク 著 ;ステファヌ・オーデル 編 ; 千葉文夫 訳「プーランクは語る-音楽家と詩人たち」

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