氷上の光
あらゆる不調を経てから、付き合いの場以外でお酒を飲まなくなった。飲みたいと思うことも、もうない。
昔はよく飲んでいて、その時代を知る人から「飲まないの~!?」とか言われるのが猛烈にめんどくさいので、最初の一杯だけ飲む。それも最近はなくなってきたかな。
ウイスキー・オン・ザ・ロックが一番好きだった。氷が溶けてゆくにつれて、少しずつ味が変わるのが好きだった。それはグラスに注がれた小さな黎明を味わうようだった。
丸氷がバーの照明を映すのが綺麗で、グラスをくるくる回して光をきらきらさせるのが好きだった。それは手のひらのなかで、自転する星を見るようだった。
誰かと飲むのは好きではなかった。ほっといてくれるマスターのいるバーのカウンターで、一人で飲むのが好きだった。
もう一度、その心地よい酩酊に身を寄せたくはないのか。いや、今となっては、記憶の輝きにしたままでいるほうが美しい。

